今年も「マツモト建築芸術祭」が開幕しました。松本市の名建築と各アーティスト作品のコラボ的イベントです。昨年から始まった展示イベントですが、どの会場も会場の建物含めてとても興味深く見ることができた楽しいイベントでした。今年も会場の一部追加・変更をしての開催です。この記事では各会場・作品ではなく、たまたま通りかかったら聞くことのできたトークセッションについて触れます。ブログタイトルがガンオタ丸出しな表現ですが、話を聞いているとまさにそれと思えるものでした。
トークセッションについて
私が今回見てきたトークセッションは「若手作家+おおうちおさむトークセッション」というものです。総合ディレクターのおおうちおさむ氏と出展作家3名(井村一登氏・後藤宙氏・村松英俊氏)が芸術の本質について語り合うという内容でした。信毎メディアガーデンに寄ったらちょうど時間が被っておりそのまま参加できました。
主な話の内容
トークセッションで出た話の内容としては3名の若手作家の作品・分野・方向性、アートに進んだきっかけと経緯、3者感・他の出展作家の作品についての講評、各会場と出展作家さんのペアリングについての考え方などなどでした。
正直なところ彼らは高い感性の塊すぎるので話の内容が理解できるか自信はありませんでした。しかし、デザイナーとは違いますが、自身のアートや作品についてかなりわかりやすく言語化してお話をされていたので私でもおおよそ内容は理解できました。それと同時に昨年の展示を見て「高い観察眼・洞察力」の持ち主ばかりだと感じたことは間違っていなかったという確信も得られました。
泥臭いアウトプットをストイックにできる「科学者」
具体的に「誰々さんはこうだった」とか「何か一つの作風・素材に特化している」などは作品を見ればわかることなのでここでは触れません。それよりも重要に思えたのがアートに対する取り組み方・姿勢です。各々で言っている内容やバックボーンは違いますが「思考以上にメチャメチャ手を動かす」、「失敗を失敗とは思わない」ということが大きな共通点に感じました。つまりは半端ない量の「アウトプット」をし続けているということです。
「芸術家」という生き物は生まれ持った才能やセンスで作品を作っていると思われがちですが実際はそうではないと思います。元々の才能もゼロではないですが大部分は学び・練習など「努力」によるものです。「センスを磨く」という言葉がまさにそれにあたるでしょう。学んだり練習するなどの積み重ね、つまりは「努力」・「研鑽」で得られるものです。ただ、彼らはそれを「努力」とは思っていないというだけの話です。
その辺りの詳細は美大の入試課題・予備校時代の話題でよくわかりましたが、共通して「千本ノック」と表現していたデッサン練習など繰り返して「アウトプット」をひたすら行っています。その結果として早々と自分の志向するものや苦手なものなどに気付くことができたのでしょう。彼らが語る内容・表現に抽象性ではなく、バリバリの「理系的」なものを感じたのはこういったことも影響しているのかなと思った次第。
おおうちおさむ氏が例として「就職活動で〇〇の分野はどうだろう?と考える前にひとまずそこに飛び込んでみれば良い」という表現に置き換えていましたがまさにその通りでしょう。後藤宙氏も質疑応答の中で「テクニックは作っていくうちに必然として身につくもの」と語っていたのも印象に残っています。仮に失敗をしても「それで一つの結果を得られ前進した」という認識です。彼らの表現をそのまま借りれば練習や努力ではなく「ひたすらに実験を繰り返す」なのでしょう。彼らはそれらの取り組みを高校生くらいの段階からストイックにこなし続けていたということです。
この美大の入試課題・予備校時代の話は自分がその世界を知らないこともあり非常に興味深く聞きました。美大を目指している人は聞いた方が良さそうな内容でした。「美術大学よりも予備校・画塾で習ったことの方が今に活きている」、「美術大学で教わることは予備校・画塾とは違うから早く忘れた方が良いと言っていた人から消えていった」、その上での「美術大学の入試課題はよくできていて考えた人は天才だと思う」という話は面白かったです。きっとその入試課題を考えた人もどういう見方や技術が必要かという「本質を見極める力」が相当高かったのだろうなと思った次第。(入試問題のあるべき姿ですね)
芸術とは行かないまでもデザインについて多少なりとも勉強すると「物の見方」について考えることは避けては通れません。かられの作品を見たときに感じさせた段違いなまでの「高い洞察力・観察眼」はそういったところから身に付いたのだろうなと思いました。
聞いてよかった充実のトークショーでした
自分の中で聞いた話の中身がうまく言語化できるほどまとまりきっていませんが、「おそらくこういうことなんだろうな」というぼんやりしたレベルでは把握したつもりです。それと同時に改めて彼らの凄さもよくわかりました。あと、言語化で思い出しましたが井村一登氏がやたらと話が上手だったのですが、当初はお笑い芸人を考えていたとおっしゃっていました。喋りや言語化が上手いのも納得です。
また、上記で触れたこと以外にもおおうちおさむ氏が出展作家さんの作品・作風をどのように見て展示会場とレイアウトを考えているのかという話も聞けたのが最大の収穫でした。各作家さんの作品群と各会場をどう組み合わせてどう演出するかというのもまさに「空間芸術」というものなのでしょう。これから回る会場もあるのでさらに深みを持って観ていくことができそうです。