今年も松本市内の歴史的建築物とアートのコラボイベントである「マツモト建築芸術祭2」が始まりました。先日はイベント開始に合わせてのトークセッションの話を記事にしましたが、今回は各会場・展示を見てきた話となります。事細かに全部紹介はキリがないので主だったもの、印象的だったものをかいつまんでの紹介となります。また、昨年も回った建物については説明を割愛します。
※昨年のマツモト建築芸術祭、今回のトークセッションの話は下のリンクからご覧ください。
今年からチケット(共通パス引換券)が必須
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昨年との大きな違いとして1,000円のチケット(共通パス引換券)が必要です。全部の会場ではありませんが主だった建物が有料となります。上土シネマ内のインフォメーションセンター(松本市大手4-10-12)かArtStickerで購入することになります。ただ、ArtStickerで電子チケットを購入しても上土シネマで共通パスと引き換えする必要があります。なぜこんな面倒くさいシステムにしたのか謎です。これなら現金で当日購入した方が良いと思います。
今回から有料になったことについてTwitterで文句?が出ていましたが、無料だった昨年が異常だったと思います。コミケですらやっとチケット制を導入していますが、こういったイベントを開催するにはそれなりのマネーが必要です。今回の入場料が具体的にどういう細目に充てられるかは不明ですが会場使用料、備品代、保険、作家へのギャラ、広報費用……etcとお金をかけずに開催するのはまず不可能です。
各会場と展示
ここからは特に印象に残った各会場・展示をかいつまんで紹介。順不同ですがこの後の信毎メディアガーデンの会場は先述の入場料は不要、駅から真っ先にアクセスしやすいので先頭です。
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「信毎メディアガーデン」2Fの井村一登氏の黒曜石を使用した作品の展示。黒曜石は古代から利用されてきた素材ですが、私たちが思い浮かぶであろうイメージよりも透明で美しい姿は新鮮に映ります。
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ガラスと同じように溶かして不純物を取り除いているのだとか。古代の人たちがこの透き通るような黒曜石の塊を見たらどんなリアクションをするのか楽しみです。自分がこういう光り物が好きなこともありますが本当に美しいです。
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こちらも精製した黒曜石で作成された壺。
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こうして見ると古代からある素材でありながら「新しさ」というものを感じさせます。
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明治期に建てられた蔵屋敷を再生した「レストランヒカリヤ」。この建物を抜けた奥の蔵が会場です。
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この建物が建っている通りはかつての「善光寺街道」で似たような蔵をちらほらと見かけます。
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全く本筋と関係ありませんが同じ通り沿いにまぜそば専門店「とら」というお店が2/16にオープンするようです。「発酵とスパイス」や「日より」の裏手?の位置です。こちらも蔵を再生させた店舗のようです。そういえば「CLAMP松本店」がある複合商業施設「和泉町伍蔵」の建物もそうですね。全部がうまく行くとは限りませんが、善光寺通り沿いに残る昔からの蔵などは解体orお店として再生という分かれ道パターンが多いようです。
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脱線しましたが話を戻します。レストランヒカリヤでは後藤宙氏の糸を使用した作品が展示されています。
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後藤宙氏も先日のトークショーに出演されていたのでどういう意図で制作をしているかはおおよそ把握済み。それを聞いていなくとも見ていて楽しめると思います。うまく表現できませんがすごく引き込まれるものがあります。
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さらに会場で見て驚いたのが会場の内装と後藤氏の作品がすごく馴染んで見えたことです。この空間に展示していて何の違和感もありません。
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とくにこの部屋は「元からある内装です」と言われても何の疑いを持たないくらいにマッチしています。トークショーで語られた作家さんの志向からするとあまり望まないところがあるかもしれませんがそう感じました。この会場はぜひとも行って見て欲しい展示です。
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こちらはこのブログでは何度か登場している「旧司祭館」。明治期に宣教師の住居として建てられたもので現在は旧開智学校の隣に建っています。
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旧司祭館ではCALMAの岡本亮氏の作品が展示されています。博物学的なアプローチということで今も使われる道具などで部族的な表現でまとめているとか。今を生きる私たちも未来の人からは鑑賞の対象になるという考えは面白い着眼点に思えます。あと、親切なことに作品解説の用紙も配布されたので理解しながら見られたのもよかったです。
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こちらの作品は壁に掲示されているものとスーツケースの塊は別作品ですが、このセットで一つの作品のように見えました。解説文も読みましたが私にはお葬式のイメージです。そのほかにも見る人が見たらブチ切れるんじゃないかという作品がありましたが、解説文記載の意図するところには同意です。確かに背負わせすぎですよね。
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こちらは「旧高松屋商店」。食品卸売業を営んでいた高松屋商店が1961年(昭和36年)に建てたものだそうです。真ん中で区切られていて半分をテナントとして貸し出していたのだとか。タイル張りの壁、正面ショーウィンドウ脇の大理石など時代を感じさせます。
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建物の特徴からなのか石を扱った展示です。村松英俊氏は主に道具などの一部が石に置き換わったような作品を扱っているそうです。トークセッションにも出演されていましたが石が持つ普遍性に魅せられているのかなと思った次第。
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こちらのバイクも外装の白い部分が石の削り出しで作られています。ぽっかりと中をくり抜きつつ各ディテールも精密に彫られています。
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なによりも中身の機械部分とぴったりとハマっているのに驚きます。実際に走ったら重くて燃費や坂で苦労しそうですが……。
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かつてのメインストリートだった六九商店街にある「旧油三洋裁店」。壁・屋根のひさしを見ると隣の仏具店と繋がった建物であることがわかります。
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建物の中は洋裁店だったことを伺わせる備品類がそのまま残っています。スタッフさんにお話を伺ったところイベント用に電気を引っぱってきた以外はほぼそのままなのだそうです。
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この会場では吉本天地(amachi)・ヨーガン アクセルバルの衣装および写真作品が展示されています。写真のモデルさんに関するお話なども聞くことができ、会場共々とても楽しく見ることができました。
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大正時代に建てられたという「旧小穴家住宅」。玄関周りや窓枠が洋風で時代を感じさせます。この建物については以前に保存を強く望む弁護士さんが買い取ったという話を新聞か何かで読んだ記憶。建物解説を読んで「やっぱりその建物か」と。
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白壁に水色の枠線、玄関のステンドグラスが素敵です。
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こちらでは鬼頭健吾氏の作品が展示されています。絵画と日常用品を組み合わせた作品とのこと。こちらの作品以外にも裏のガレージにも電飾看板作品が展示されています。光っている照明に目が行きがちですが、キャンバスに描かれている描画も繊細かつ美しいです。
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中町通り沿いのはかり資料館の裏手にある「旧三松屋蔵座敷」。1894年(明治27年)に建てられたそうで「旧開智学校」を手掛けた立石清重によるもの。
1階が和室・茶室、2階が洋間のサロンになっています。一度解体されましたが復元改修されて今の姿になったそうです。法律上の絡みから当時の姿を完全再現とはいかなかったとか。
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入り口上ん装飾や窓枠にどことなく旧開智学校を感じさせます。
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こちらの会場ではドローグ・デザインというデザインユニットによる作品が展示されています。一般に流通している道具・雑貨を使用した照明作品がいくつか展示されていました。こちらも先のレストランヒカリヤと同じく作品と会場の親和性が高かったように感じました。作品のシンプルさ、照明の色、室内の床と壁の色などがうまく融合したということでしょうか。
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こちらは大正時代に医院併設住宅として建てられた「かわせみ建築設計室」。名前の通り現在は建築設計事務所として使用されています。縦に長い上げ下げ窓と石積みを思わせる外壁など装飾性の高くてモダンな建物です。
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正面玄関上部にはステンドグラス。先述の「旧小穴家住宅」もですが大正期の流行だったのでしょうか。
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そういえばこの扉にはドアノブが無いですね。押して開くタイプ。ドアノブに手を掛ける手間はないので事務所としての使用なら親切なのか。
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こちらの会場ではミシシッピ氏の絵画作品が展示されています。本イベントポスターのビジュアルの方です。ほかにも「コーヒーラウンジ紫陽花」の壁面にも作品を描いています。画家・コミック作家とのことですが作品を見るとストリートアート的な作風に見受けられました。
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今回は階段や2階にも作品が展示されていました。また、会場となっている建築設計事務所さんの資料も見ることできます。松本市の歴史を知ることのできる資料もあって楽しめました。
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面白い展示方法だなと感じた作品。コーヒーラウンジ紫陽花の壁面アートも踏まえると「街や家の壁などさりげないところに在る」という方向性なのかなと。
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こちらは「松本館」の鳳凰の間という会場。昨年は木像が展示されていましたが、今回は福井江太郎氏のダチョウの絵画作品です。
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お粗末な写真で伝わりませんが実物は迫力があって見応えがあります。この広くて美しい鳳凰の間というスペースだからこそ展示できる作品なのでしょう。会場自体の美しさからこのイベントだと中心で扱われる印象ですが、それ故に展示する作品や展示方法は限られるのだろうなと思いました。
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こちらは屋外展示でまだ開館していない「松本市立博物館」です。白鳥真太郎氏のフォト作品。このキャンバスを埋め尽くしている魚は都会の雑踏を行く人たちなのだとか。
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外から博物館の中を覗くとイルミネーション?が流れていました。夜だともっと目立つのでしょうね。
マツモト建築芸術祭が繋いだ縁
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余談ですが昨年の本イベントで会場として利用された「旧宮島肉店」。1932年(昭和7年)に建てられた元精肉店で店名の頭文字の「M」の装飾が付いただけのシンプルなデザインの建物です。
こちらの建物はマツモト建築芸術祭で使用されたことがきっかけで洋菓子店「菓子 壱」に生まれ変わるそうです。 使われなくなった建物がこうして未来に繋がっていくというのはとてもめでたい話です。
マツモト建築芸術祭は会場になっている建築物とアート作品について「新しい見え方や価値観を見出す」ことがテーマにあるという認識ですが、「新しい価値」を見出すきっかけになったのではないかと思います。そう考えるとイベント冥利に尽きるのではないでしょうか。
冬の松本市も楽しめる
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かいつまんでの紹介のつもりが長くなってしましました。昨年同様に展示作品に対する理解度は稚拙なものですがそれでも見ていて楽しめました。先日のトークセッションで語られていたことでもありますが、建築物とアートの融合ということで「どの会場にどの作品をどのように展示するのか」というところも非常に難しいのだろうなと思いました。このイベントの展示もある種の「空間芸術」と言えるのでしょう。
今回は2回目の開催となりましたが、松本城をはじめとしたイルミネーション同様に冬の松本市を楽しめる貴重なイベントです。会期も2月26日までとまだまだあります。何かのついででも冬の松本市に来た際はぜひとも見ていって欲しいイベントだと思います。