松本市にある国宝「旧開智学校」は耐震工事のため2021年6月から3年間の休館に入ります。3月31日まで「come to matsumotoキャンペーン」の一環として無料開放も始まっていたのでミニベロでのポタリングと合わせて行ってきました。
「旧開智学校」について
「旧開智学校」は長野県松本市にある日本最古の小学校の一つです。1876年(明治9)に完成し約90年ほど使用されたのち、1963年に移築・復元し今の姿になりました。2019年には近代学校建築物では初となる国宝指定を受けました。
有名な卒業生としては木下尚江、澤柳政太郎、水崎基一、吉武栄之進などが出ています。
最近、海外の方に「松本城以外に何かオススメの場所はありますか?」と尋ねられました。私は松本城から近いこともあり「旧開智学校」をはじめとした学校建築物や美術館・博物館を紹介しました。その中でも「旧開智学校」をはじめとする学校建築物は非常に反応が良かったです。日本に留学していたこともあり「海外の教育関係資料」は興味深い対象だったようです。もしかすると寺社仏閣と同じような括りなのかもしれませんが。
紹介してから気付いたのですが、その方はとてもタイミングが良かったと思います。なぜかと言えば冒頭に述べたように2021年4月から3施設が順次休館に入ります。旧開智学校については3年間の休館です。3月31日まで「come to matsumotoキャンペーン」の一環として無料開放も始まっているので興味があるなら行っておいた方が良いでしょう。次に行けるのは3年後・・・。
校舎外観
ミニベロを走らせて旧開智学校に到着。2枚目は校舎2階から見た一台寂しく佇むミニベロくん。
この校舎は地元の大工棟梁の立石清重が設計・施工し1876年(明治9)に完成しました。「洋風」に見えますが屋根瓦、龍や雲の装飾など「和」の要素が混ざった「擬洋風建築」の建物です。白磁の漆喰壁が眩しい外観です。近くにある松本城の黒さとは対照的です。
中央玄関を配したデザインは「権威性を高める」などの効果を狙ったもので明治期の建物には多い傾向です。東京に残っている官公庁系の建物や東京駅、旧制高等学校のナンバースクールに見られます。こちらの学校についてはそれを意図したのかは不明です。ナウい(死語)近代建築のデザインとして取り入れたのかもしれません。
また、正面玄関を配してはいますが実は左右非対称です。左右の窓の数が違うのです。窓については教室内から見ると部屋の端に窓が配置されており変わった造りとなっています。
特徴的な正面の天使や龍の装飾ですが昭和の初めには撤去され簡素になっていました。現在の姿は移築に合わせて復元されたものになります。復元には当時の小学生の絵画なども資料(もはや史料)として参考にしたそうです。
正面のバルコニー(雲の部分)は「装飾」としての意味合いが強く、バルコニーに出るには窓をよじ登る必要があるようです。
校舎内観(主に廊下)
詳細な展示物をアップするのはダメなので建物内の通路など雰囲気が分かるものをいくつか載せます。
校舎内の特徴としては「廊下の両側に教室が配されている」ことです。現代の学校の廊下は外に面しているところがほとんどのはずです。これは「日当たり」や「通気性」といった衛生上の観点からの構造です。大正期建造の「旧制松本高等学校」も教室への日当たりを考慮した「コの字型」で現代の校舎に近い構造です。
館内には卒業生の回想も展示されていましたが、日当たりが悪いため教室内が暗かったことに触れている文が多々ありました。実際にかつての教室であった各展示室に行けばわかりますが昼間でも照明は必須です。その他にも校舎外観で当初は違和感を持っていた生徒もいたようです。当時の松本市街の中にこの洋風建築なので相当浮いていたと思います。
そのような使いづらさから昭和にかけて冒頭の天使のレリーフはじめ増改築が繰り返されていたようです。ただ、天使のレリーフなどの撤去理由は不明のようです。
建物内で一際異彩を放つのがこちらのステンドグラス。ここだけやたら輝いています。先述の立石清重がフランスから買い付けた舶来品です。当時、日本では板ガラスを製造していなかったこともあり建物に使用されているガラスは全て舶来品を使用しています。
展示についても当時の学校教育事情、松本市における生活と教育の関係、感染症対策など豊富な資料が展示されています。
「学都松本」の下地となった学校建築物
使いづらい部分もあったようですが当時はお寺を流用した小学校などが多い中、松本市民が建築費用7割を負担して建てただけあり近代教育にかける当時の気概を感じさせます。そういった動きが「学都 松本」の下地になったのだろうと感じました。
*これらの影では「廃仏毀釈」の嵐が全国的に吹き荒れたことも忘れてはいけないでしょう。
余談:松本市旧司祭館
旧開智学校のお隣には「旧司祭館」があります。こちらは1889年(明治22)にカトリック松本教会の宣教師用住居として建てられたそうです。1991年に現在の場所に移築され、「暖炉やベランダを備えた県内最古の西洋館として貴重」として2005年に県宝に指定されています。
こちらも当時の西洋建築物として見る価値があると思いますので旧開智学校と続けて見てみることをオススメします。そういえば松本市内は教会を至る所で見かけます。