「マツモト建築芸術祭」で地域の歴史建築物を再発見

「マツモト建築芸術祭」というイベントが2021年2月20日まで開催中です。松本市内の歴史建築物とアート作品のコラボといったイベントです。各建築物と展示については公式サイトをご覧いただくのがわかりやすいので割愛しますが本イベントを通じ市内に存在する建築物について存在や歴史を知る良いきっかけとなりました。

 本当は全会場紹介したいところですが凄まじいボリュームになるのでかいつまんで掲載。

 まずは「割烹 松本館 」の展示。地元新聞紙にも掲載されていたのでおそらく本イベントでは一番知名度もあるのではないでしょうか。「割烹 松本館 」の存在は今回のイベントで初めて知りました。そもそも「割烹って聞いたことあるけど何?」というところからスタートです……。 1890年(明治23年)創業でこちらの建物は1935年(昭和10年)に建て替えられたものだそうです。

 大広間の「鳳凰の間」をはじめどの部屋も豪華絢爛な高級割烹です。東京の目黒雅叙園に感銘を受けた2代目当主が賓客をもてなす施設を松本にも作りたいとして建てられたとのこと。松本市出身の太田南海氏が設計・監修・彫刻を担当。99畳の広さで4年の歳月をかけて作ったそうですがこれだけのものを4年で完成したのもすごいと思います。

 展示物の木像作品は海外で制作されたとのことで20数本の木材から手彫りで製作したそうです。

 大広間の荘厳さと作品の堂々とした佇まいが意外とマッチしていると感じました。

 ちなみに結婚式などの催事利用が可能みたいです。あの大広間で結婚式やったら忘れられないでしょうね。一般的な教会などと異なり市内の立地なのでアクセス抜群です。

 こちらは「葡萄の間」というお部屋。至るところに葡萄とリスの装飾や絵が配置されています。

 「葡萄」は「武道」、「リス」は「律する」にかけているそうでこの装飾は古来より武士階級には受けが良かったそうです。

 松本館は本イベントが無ければ存在を知ることも中に入ることもなかったと思います。館内もイベントスタッフではなく松本館のスタッフさんが丁寧に案内してくれました。今までにもたくさんの展示会などに行っていますがこういう展示会場は初めてです。

 こちらは「NTT東日本松本大名町ビル」。昭和の初めに松本郵便局の電話分室として使用されたそうです。正面入り口に旧看板が残っています。

 別会場でスタッフさんから夜に行くことを勧められましたが夜だとこんな感じです。建物内の照明とカーテンを使って彩られています。

 中の展示物も夜に見ることを意識した内容でした。

 こちらは「旧宮島肉店」。1932年(昭和7年)に建てられた元精肉店です。松本市近代遺産に登録されているとのこと。

 店名の頭文字の「M」の装飾が付いただけのシンプルなデザインです。近隣の土蔵などもこういった装飾はありますがほとんどは「漢字」です。あえてアルファベットを使用しているのはどういう意図なのか? 近隣には教会も点在していたり西洋文化に触れやすい土壌はあったと思うのでその影響もあるのかと推察。

 中はこんな感じで壁などは基礎部分が剥き出しです。カウンター跡などお肉屋さんであった名残が見られました。

 こちらは「松本聖十字教会」。新型コロナ感染拡大のため残念ながら中には入れませんでした。先ほど触れたように市内には教会がいくつか点在しています。市内を観光していると結構目につくと思います。

 こちらは「旧司祭館」。名前の通り明治期に宣教師の住居として建てられ、後に現在の場所に移築された建物です。現在は旧開智学校の隣に建っており観光で一緒に見たことがある人は多いのではないでしょうか。アーリーアメリカン風の建築様式で各部屋に暖炉が配置されています。建物背部(市立図書館側)の1F・2Fにベランダを備えています。

 そのベランダ側などに作品が展示されていました。写真作品など多く展示されているのですが載せきれないので一枚だけ。こちらの作品は向かって左下が破損しています。海外からの輸送中に破損したそうでそのまま展示したとのこと。

 旧司祭館では現在休館となっている旧開智学校の一部展示を移設しています。近いうちに観光の予定がある方は立ち寄ってみるのも面白いと思います。

 こちらはイオンモール松本のすぐそばにある「旧念来寺鐘楼」です。画像は鐘楼の2Fです。1705年(宝永2年)の建造とのこと。こちらも例の如く明治時代の「廃仏毀釈」の波に襲われましたが「時の鐘」の役割があるからと無事生き残ったそうです(伽藍はダメだった)。鐘と欄干の装飾は戦時中に金属供出で外されてしまい復元されたのは2020年(令和2年)と割と最近です。

 画像の奥にイオンモール松本が見えていますがお店に立ち寄る際に見かける鐘楼にこんな歴史があるとは知りませんでした。本イベント様様です。ちなみに画像の左側(見切れていますが)は柵が無いので危なっかしいですね……。イベントではのぼり旗を設置していましたが。聞いたところによるとかつては隣の建物と2F通路で繋がっていたそうです。柵の類が無いのはその名残りとのこと。いや、でも柵付けた方が良いと思うけど……。

 鐘楼の1Fでは電話音声とジオラマ・スクリーン画像の作品が展示されていました。電話音声は「院生時代のアパートの大家さんとのやりとり」、「廃品回収業者とのやりとり」でした。アパートの大家さんとのやりとりは私自身も似たようなやり取りの経験があり聞いていて楽しかったです。「ああ、こんな感じだった。こんな感じだった」とすごい共感しました。

 こちらは「池上邸 土蔵」。この辺りは多くの土蔵が残っていますが壁面デザインが特徴的です。こてと洗い出しでモダンに仕上げていると解説にありました。米蔵として使用されていたそうですがこれを建てた人は相当センスのある方なのだと思います。設計・施工者が不明となっていたのでもったいないですね。名前を知りたかった。

 ちなみにすごいわかりにく場所にありました。イベントの登りがなければ地図見てもこことわからなかったと思います。

 会場で聞いたところによればこちらの土蔵はイベント会場などで貸し出されているそうなので知っている人は知っているのかもしれません。

 上土(あげつち)通りにある「上土シネマ」。大正期に市民有志の手で開館し2008年に閉館したそうです。松本まで映画を見に行ったことはありますがすべてエンギザだったはずなのでこちらと近くの「上土劇場」は本イベントで初めて訪れました。

 中は迷路を思わせるような構造に感じました。まさに昔の映画館という雰囲気。

 「下町会館」は市内をサイクリングする際に通りかかっていましたが初めて名前を知りました。もともとは薬屋さんだったそうです。改修工事を経て現在は町づくりの拠点として利用されているそうです(具体的にどういう活動をしているか不明)。この時は吹雪いてきて写真撮るのも大変でした……。

 こちらは「レストランヒカリヤ」。明治時代に名門商家が建てた古民家とのこと。それを2007年に飲食店として再生。

 明治期の建物ですが使用されている技術は江戸時代からの建築技術が使用されています。レストランヒカリヤは国道143号線、つまりは「旧善光寺街道」沿いに建っています。かつての街道沿いということでこのあたりは土蔵が多く残っています。信州大学方面にもう少し進むと昨年行った「CLAMP松本店」がある複合商業施設「和泉町伍蔵」があることを思い出しました。古くから残る土蔵建築物を活かす方策として今後も増えるのではないでしょうか。

 展示はカトマンズの仏塔としの周辺の景色の写真でした。作品は数枚ですが旅・巡礼をテーマにした展示で時間を割いて見入っていました。以前はネパールに浅からぬ縁があったので今更ながらこういうところなのかと視覚的に知れたことも収穫?だったと思います。

 かいつまんでの紹介でしたが思ったより量があったように思います。ここまでの読んでいただいてお分かりかと思いますが「展示作品」についてはほとんど触れておりません。これは私が展示作品について「言語化できない」のが理由です。はっきり言えば展示作品について何か語れるほどの「センス(教養)」が圧倒的に足りていないということです。各会場の解説文を読んだ上で「なんとなく」のレベルで把握できますが文章にできるほどの理解ではありません。定義づけが難しいですが「アート」については見る人にも相当な「センス(教養)」が求められるなと感じた次第です。

 展示作品については私自身の問題で理解度が微妙でしたが市内のよく通り過ぎる建物について新たな一面を知ることができたのは大きな収穫だったと思います。私は「建物そのもの」以外に「歴史」の部分に目が向きやすいので各会場を廻っていてとても楽しかったです。サイクリングで遠出するときも大体はこういった部分が目的だったりします。また、東京にいた時もそういう歴史建築物をいくつか回ったりしていました。かつての戦火にまみれた東京でもあれだけ古くからの建築物が残っていました。各地域でもよくよく注視してみると今回のような興味深い歴史建築物が見つかると思います。昨今の情勢からイベントの開催自体が厳しいのですが新たな知見を得るきっかけとして今後も続いていって欲しいなと思います。